「目標」や「望ましい方向」へクライアントを動機づけたい、でもなかなか上手くいかない…。キャリアコンサルタントの方や、対人支援の仕事をされている方の中には、そんな経験をされた方もいらっしゃるかもしれません。そんな時には「動機づけ面接法」の活用がお勧めです!
なかなか動機づかない就活生の支援に悩んでいた私は、「動機づけ面接法」に出会い「こんなに実践的かつ効果的な方法があるんだ!」と感動しました。そして早速実践で試してみて効果を実感しています。動機づかない部下を持つ管理職の方も必見の方法だと思います。
このブログでは、「動機付け面接とは何か?」を分かりやすくご紹介します。
動機づけ面接法とは?

動機づけ面接法って聞いたことないけど、どんなものなの?
アメリカの臨床心理学名誉教授ウィリアム・R・ミラーと、イギリスの臨床心理学教授ステファン・ロルニックが主になって1980年代に開発したカウンセリングアプローチ。


MIの理論は対人支援や部下育成の現場で役立つ実践的な方法だと思うので、ぜひ日本でも広まって欲しいです!
MIの精神 PACE

それでは、まず最初にMIのベースとなる「精神」からご紹介します。「精神」とは「基本理念」や「面談中に常に心掛けること」だとご理解頂くと分かりやすいかと思います。
P: Partnership(協働)
A: Acceptance(受容)
C: Compassion(思いやり)
E: Evocation(喚起)

PACEというのは4つの英単語の頭文字なんだね!

うん。この4つを常に意識しながら面談を進めていくのがMIの基本なんだ。この4つをもう少し詳しくご紹介するね。
Partnership(協働)
クライアント(以下CL)とカウンセラー(以下CO)は、「上下関係」ではなく「対等な立場のパートナー」。2人で協力して問題解決をしていく。
Acceptance(受容)
COは自分の価値観を脇に置き、CLが見ている世界を理解することに努める。また、COが何かを強要することはなく、CLが自分で選択して決める権利を尊重する。そして、CLの強み・善意・努力を認め伝えていくことを大切にする。
Compassion(思いやり)
もしCLとCOの意見が違っても、COはCLが幸せになれる変化を促進する。(例:CL=禁煙したくない CO=CLの身体の状況を考えると禁煙が必要)CLの福利向上を優先する。
Evocation(喚起)
COが何かを教えるというスタイルではなく、CLの考え・解決策・価値観などを引き出して行動変容を支援する。

ロジャーズが唱えたCOの理想のあり方「受容」「共感」「一致」と似ているね?

そうだね。ただ「思いやり」「喚起」はMIの特徴かな。私は「思いやり」の考え方は今までなかったのでとても参考になったよ!
MIの基礎スキル OARS+EPE

では、次にMIの「基礎スキル」をご紹介します!

「精神」と「基礎スキル」の違いがよく分からないな…

「面談全体を通じて意識する」という点では同じなんだけど、「精神」は「マインド」、「基礎スキル」は「テクニック」だと考えると分かりやすいかな。
共感的に聞くスキル=OARS
情報提供するスキル=EPE
O: Open questions(開かれた質問)
A: Affirming(是認)
R: Reflective listening(聞き返し)
S: Summarizing(要約)
Open questions(開かれた質問)
YesやNoで答えられない質問は「Open question(開かれた質問)」、逆にYesやNoで答えられる質問は「Closed question(閉じた質問)」と呼ばれる。Open questionの方が相手から多くの発言を引き出すことが出来る。
例:お昼ご飯食べる?(閉じた質問)
例:どんな事情で変われないのでしょうか?(○)
Affirming(是認)
CLの強み・善意・努力に気付き、認めて、言葉で伝えていく。(「賞賛」や「ほめる」ことではない。)来談者の多くは「うまくいっていない」と自信を失って面談に訪れているため、是認の声掛けによって来談者のやる気が引き出されることがある。
例:この前の面談の内容を覚えてくれていて嬉しいです
例:結果はともかく、やろうとされたのですね
Reflective listening(聞き返し)
「聞き返し」には「単純な聞き返し」と「複雑な聞き返し」の2種類がある。「単純な聞き返し」とは、CLの話の中で重要だと思う部分をCLが使った言葉をそのまま使って聞き返すこと。(いわるゆ「オウム返し」)「複雑な聞き返し」とは、CLの発言の奥にある深い意味を推測してCLの言葉を変化させて聞き返すこと。
CL: 正社員になりたいけど大変そうだし…
CO: 正社員になりたいのですね
複雑な聞き返しの例
CL: 正社員になりたいけど大変そうだし…
CO: そろそろ自分の働き方を見直す時期にきている、と感じているのでしょうか
Summarizing(要約)
適切なタイミングでの要約は、CL自身がこれまでの経験を整理して確認する作業を手助けすることになる。また、面談中に話してくれたことを理解し、覚えていることを示すことにもなるので、MIの精神の「受容」にも繋がる。要約をすることで、CLの次の発言を引き出すことも出来る。

OARSはキャリアコンサルタント養成講座で学ぶ「アイビイのマイクロ技法」に似ているね!

うん。ただMIは「CLを望ましい方向へ動機づける」という明確な意図を持ってOARSのスキルを使っていくという点が特徴的だと思うわ。
こちらのブログでは割愛しましたが、「聞き返し」や「要約」はさらに細かい種類に分かれています。ご興味がある方は、後ほど紹介する「実践活用シート」や「参考書籍」をご参照ください。
次に、EPEをご紹介します。
E: Elicit(引き出す)
P: Provide(提供する)
E: Elicit(引き出す)
Elicit(引き出す)
情報を提供する前に、まずはCLが知っていることや知りたいことを尋ねる。
例:志望動機の書き方について、どんなことが気になっていますか?
Provide(提供する)
情報提供をする際は「許可を得ること」「自律性を保証すること」が大切。
例:実際にどうするかは〇〇さん次第なのですが、ハローワークを利用するという方法もあります。
例:3つの方法をご提案しましたが、どれか気になる方法はありますか?
Elicit(引き出す)
情報提供をした後は、CLの理解や考えを確認する。
例:求人情報の探し方についてお話してみていかがですか?

情報提供の前にも後にも「引き出す」プロセスを入れるんだね!

MIの精神の「喚起」にもあるように、CLの考え・解決策・価値観を引き出すことで行動変容を支援するのがMIの特徴なんだ。
チェンジトーク DARN+CATs

ここまで「精神」や「基礎スキル」を見てきたけど、そろそろMIの一番特徴的な部分を教えて欲しいな~。

お待たせしました!ここからはMIの一番おいしいところをご紹介します!
MIは、これまで紹介した「MIの精神」と「MIの基礎スキル」を使いながら、CLの「チェンジトーク」を増やし、「維持トーク」を減らすことで、CLの行動変容を促す面談のことです。

うわ、なんか新しい言葉が出来てきた…!「チェンジトーク」「維持トーク」って何?

「チェンジトーク」とは「変化に向かうCLの言葉」のことで、「維持トーク」とは「現状維持にとどまるCLの言葉」のことだよ。
チェンジトークを強化するためには、まずはCLとの対話の中でチェンジトークに気付くことが必要です。チェンジトークには「準備言語」と「実行言語」の2種類があります。
準備言語=DARN
実行言語=CATs
D: Desire(願望)
A: Ability(能力)
R: Reasons(理由)
N: Need(必要)
Desire(願望)
変化の願望(~したい)
Ability(能力)
変化する能力(~出来る、出来た)
Reasons(理由)
変化する理由(もし~したら○○になる)
Need(必要)
変化する必要(~する必要がある、~すべき)
次に実行言語をご紹介します。「変化に向けて行動する」ことをCLが示唆する言葉です。
C: Commitment(宣言)
A: Activation(活性化)
Ts: Taking steps(段階を踏む)
Commitment(宣言)
意志、決断、約束
例:明日、ハローワークに行ってみます。
Activation(活性化)
用意万端、準備する
Taking steps(段階を踏む)
行動を段階に分けて述べる
例:1週間以内には、この求人に応募してみます。

チェンジトーク(DARN+CATs)に気付いたら、どうやって強化していけば良いの?

このブログもだいぶ長くなってしまったので、チェンジトークを強化して、維持トークを消去していく方法は、本ブログでは割愛します。詳細を知りたい方は、後ほど紹介する「実践活用シート」や「参考書籍」をご参照ください。
MIを実践で使った感想

ここまでの内容でMIの魅力が読者の方に伝わったかしら…?

う~ん、正直なんとなく理解はできたけど、実践でどう使えば良いのかまだイメージが沸かないな~。

では、私が実際に面談にMIを取り入れた体験談をご紹介するわね!
内定を辞退するか悩んでいる学生のケース。学生は勤務時間が条件に合わず辞退に気持ちが傾いていた。しかし、辞退すると無業で卒業することになるため、学生の福利向上を優先して辞退しないことを勧めた。

私はCLの考えを尊重しすぎるあまり、自分の意見を伝えられないことが多かったのですが、「思いやり」を意識することで変わることが出来ました。
志望動機の書き方について相談に来た学生のケース。まず学生自身が知っていることについて尋ね、不足している視点について「他のポイントもお伝えしても良いかな?」と学生の許可を得てから情報提供。最後は「今日参考になったことはあった?」と理解を確認。

許可を得てから情報提供をすると、クライエントが「カウンセラーの話を聞こう」という意志を持って聞いてくれるので理解度が高まると感じています。
卒業後はフリーターでも良いと思っている学生のケース。「いつかは正社員になりたいと思ってはいるんですけど…」「正社員の方が稼げますよね」など、対話の中のチェンジトークを要約して伝え返し。「今までの話をまとめると…(要約)聞いていていかがですか?」と学生の考えを引き出した。

MIを学ぶことで、CLを望ましい方向へ動機づける問いかけの引き出しが増えました。(「禁煙」「禁酒」などとは違い「望ましい方向」が多種多様であることにキャリアカウンセリングの難しさを感じていますが…!)
参考書籍紹介
今回私が参考にさせて頂いた書籍をご紹介します。『医療スタッフのための動機づけ面接法 逆引きMI学習帳』発行所:医歯薬出版株式会社 著者:北田雅子、磯村毅

私がこれまで読んだ本の中で一番分かりやすくて、読んだ次の日から実践で活かせる内容が盛りだくさんでした!医療関係者向けの本ですが、キャリアコンサルタントの方が読んでも学びが多い一冊だと思います。
MI実践活用シート
ご紹介した書籍もとても分かりやすくまとまっているのですが、カウンセリングをする際に「手元に置いてすぐ参照できるメモ」があったら便利だな~と思い、自分用にまとめたものを共有させて頂きます。

A4サイズの紙に2ページ分印刷して使うと便利そうだね!

ポイントだけを箇条書きにしていますので、ご紹介した書籍をお読み頂いてからご使用されることをお勧めします!
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